論文抄録

第127巻第12号

臨床研究

透明化技術を用いた疑似ヘマトキシリン・エオジン染色画像による眼瞼脂腺癌の三次元的評価
朝比奈 祐一1)2), 日向 宗利2), 田中 麻美3), 相原 一1), 小野寺 宏4), 牛久 哲男2)
1)東京大学大学院医学系研究科眼科学教室
2)東京大学大学院医学系研究科人体病理学・病理診断学教室
3)東京大学大学院工学系研究科附属光量子科学研究センター
4)東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構

目 的:手術検体の病理診断は通常2 mm間隔の断面における評価にとどまり,病変の三次元的分布は十分な評価が難しい.今回,組織透明化試薬(LUCID)を用いてヒト眼瞼脂腺癌の病理検体を三次元的に評価することを試みた.
対象と方法:対象は右下眼瞼脂腺癌に対して切除術を施行され,ホルマリン固定・パラフィン包埋後に保存されていた80代女性の眼瞼検体である.これを脱パラフィン化したのち,4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩溶液(DAPI)と蛍光標識トマトレクチン(TL)で標識後,LUCIDに24時間以上浸漬して透明化し,二光子顕微鏡で撮影を行った.測定波長は430~460 μm(青色,DAPI短波長),520~580 μm(緑色,自家蛍光),610~630 μm(赤色,TL)とし,得られた画像から眼瞼の立体構造を再構成した.次に,ImageJを用いて青色,緑色,赤色をそれぞれヘマトキシリン・エオジン(HE)染色の核,細胞質,血管の色に変換することで疑似HE染色画像を作成し,構造を観察した.
結 果:LUCID浸漬後に検体の立体構造が明瞭に観察でき,疑似HE染色画像では任意断面における癌の範囲の同定や,核分裂像の観察が可能であるほか,脂腺癌は平面上では一見すると独立してみえる小胞巣状の病変が連続して構成されているという三次元的な構造理解も可能であった.また,透明化後の検体でも通常時と遜色のないHE染色標本の作製が可能であった.
結 論:LUCIDを用いた観察はパラフィン包埋された病理検体から三次元組織画像を得ることを可能にし,眼組織の正常構造や眼腫瘍の三次元的構造把握の方法の一助となり得る.(日眼会誌127:1110-1118,2023)

キーワード
組織透明化, 疑似ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色画像, 脂腺癌
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