目 的:本邦ではまれな前立腺癌による著明な視神経乳頭浮腫に対して,ホルモン療法が効果的であった症例について報告する.
症 例:73歳,男性.左眼の視野に黒い線状の影を自覚し近医にて両眼の視神経乳頭浮腫を指摘され,当院を紹介受診した.初診時視力は右(1.2),左(1.0)であり,眼底所見として両視神経乳頭に著明な浮腫,乳頭周囲に網膜出血・軟性白斑,黄斑部に網膜皺襞を認めた.光干渉断層計にて両視神経乳頭の隆起および黄斑部に漿液性網膜剝離を認めた.Goldmann視野検査にてMariotte盲点の拡大および複数の暗点の出現を認めた.髄液検査で頭蓋内圧亢進を認め,磁気共鳴画像法では頭蓋内占拠性病変を認めなかったため,特発性頭蓋内圧亢進症を疑いアセタゾラミド750 mg/日の内服を開始した.しかしながら,頭蓋内圧・乳頭浮腫の改善は乏しく,矯正視力は左(0.2)と低下を認めたため精査入院となった.追加の血液検査で前立腺特異抗原の著明な上昇を認めた.前立腺の生検により前立腺癌が確認され,髄液細胞診を計3回施行するも,いずれも悪性腫瘍細胞を認めなかった.内分泌療法に伴い頭蓋内圧と前立腺特異抗原値は正常化し,治療開始後90日に視神経乳頭浮腫・漿液性網膜剝離は消退し,視力は右(1.0),左(0.8)と改善した.
結 論:長期の乳頭浮腫は視神経変性につながることが報告されているが,今回,ホルモン療法が視力保持に効果的であった.