論文抄録

第127巻第2号

症例報告

裂孔原性網膜剝離術後に黄斑部に生じた全層性の網膜皺襞に対して手術加療を行い良好な結果を得た1例
平野 佳男1), 曽我 奈里子1), 湯口 貴彬1), 湯口 幹典2), 安川 力1)
1)名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学教室
2)湯口眼科クリニック

背 景:裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術後,黄斑部に全層性の網膜皺襞が発生し,著明な視力低下がみられたが,手術加療により良好な視力回復が得られた1例を経験したので報告する.
症 例:41歳,男性.右眼の視野障害と視力低下を主訴に近医を受診し裂孔原性網膜剝離と診断され,手術加療目的で当院を紹介受診した.当院初診時の矯正視力は右(0.4)で眼圧は右13 mmHgであった.前眼部は両眼ともに異常所見がなく,中間透光体は両眼ともに軽度の白内障,眼底は右眼の上方網膜周辺部に2か所の馬蹄形裂孔を認め,上方の網膜は胞状に剝離し,黄斑剝離を伴っていた.左眼の周辺部網膜に格子状変性を認めた.初診日の翌日に右眼に対して25ゲージカッターを用いた硝子体手術を行い,網膜下液を原因裂孔より吸引し,意図的裂孔は作製しなかった.液空気置換後,原因裂孔周囲に眼内レーザー光凝固を行った.眼内長期滞留ガスあるいはシリコーンオイルは使用しなかった.術翌日まで腹臥位を保持し,その後は起座位とした.術後5日目に視界の中心部に線状の暗点を自覚し,視力は右(0.07)まで低下していた.網膜は復位していたものの,全層性の網膜皺襞が黄斑部に認められたため,再び腹臥位を保持し翌日まで経過観察を行ったが網膜皺襞の改善はなく,術後6日目に硝子体手術を再度施行した.網膜下に眼内灌流液(BSS)を注入し,液空気置換および液体パーフルオロカーボンにて網膜を伸展させ,20% ISPAN六フッ化硫黄ガス(日本アルコン)タンポナーデとした.その後,網膜皺襞はほぼ消失し,視力も右(1.0)まで回復した.
結 論:BSS網膜下注入を併用した硝子体手術は,裂孔原性網膜剝離術後,黄斑部に生じた網膜皺襞に対して有効であった.(日眼会誌127:100-108,2023)

キーワード
裂孔原性網膜剝離, 網膜皺襞, 硝子体手術, 網膜下注入, 液体パーフルオロカーボン
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