目 的:ラタノプロストは線維柱帯細胞に作用することで房水流出抵抗の減少に関わる可能性が示唆されている.本研究ではラタノプロストが線維柱帯細胞に及ぼす影響について,全RNAの発現頻度を解析することにより網羅的に検討した.
対象と方法:培養ヒト線維柱帯細胞にラタノプロスト100 nMを作用させ,24時間後に全RNAを抽出した.各群で9千万種類以上のRNA配列を解読し,発現頻度を比較した.
結 果:ラタノプロスト添加下における培養ヒト線維柱帯細胞において有意に増加したRNAは2,464種類であり,減少したRNAは3,165種類であった.発現が増加したRNAとしては細胞外マトリックス分解酵素であるmatrix metalloproteinase(MMP)-3(952倍),MMP-1(392倍)に加えて神経保護作用を有するVGF nerve growth factor inducible(VGF)(403倍)も認められた.
結 論:ラタノプロストは線維柱帯細胞に作用しMMPを誘導することにより,房水流出路抵抗を減少させる可能性が示唆された.さらに線維柱帯細胞から神経保護因子であるVGFの発現が増加していることより,ラタノプロストの神経保護作用の一翼を担っている可能性も考えられた.(日眼会誌127:75-84,2023)