背 景:肺癌患者にみられた硝子体混濁に対し硝子体生検を行ったが,硝子体由来標本から癌細胞が検出されず,CD8陽性T細胞の単クローン性増殖を認めた1例を報告する.
症 例:78歳,男性.前医内科で20XX-2年4月に肺扁平上皮癌(臨床病期T4N2M1,StageIV),epidermal growth factor receptor(EGFR)遺伝子変異陽性と診断された.数ラインの化学療法が施行されたが,progressive diseaseであった.20XX年6月に左眼の霧視を主訴に近医眼科を受診したところ左眼の虹彩毛様体炎と診断され,副腎皮質ステロイド点眼治療を開始された.同年6月に左眼の硝子体混濁が出現し副腎皮質ステロイド内服治療が開始されたが,混濁が増悪したため同年9月に当科を初診した.転移性脈絡膜腫瘍を疑い,硝子体生検を行った.硝子体塗抹標本で核形不整のリンパ球が認められたが,肺癌細胞は検出されなかった.硝子体切除液から作製したセルブロック薄切標本からCD8陽性T細胞の浸潤を認めたが,肺癌細胞は検出されなかった.また,硝子体由来DNAからT細胞受容体の単クローン性遺伝子再構成が検出された.硝子体液中から肺扁平上皮癌マーカーである癌胎児性抗原(CEA),CYFRA21-1(シフラ)の検出はなかった.20XX+1年1月に脈絡膜に灰白色隆起病変が出現し,前房水中からシフラの上昇が検出された.腹部コンピュータ断層撮影の結果,副腎皮質への転移が見つかり,転移性脈絡膜腫瘍が考えられた.
結 論:本症例の硝子体混濁は肺癌の脈絡膜転移の後に生じ,腫瘍細胞に反応したCD8陽性T細胞の単クローン性増殖である可能性が最も考えられた.(日眼会誌127:92-99,2023)