論文抄録

第127巻第5号

症例報告

発達白内障に網膜芽細胞腫を合併した1例
古味 優季1)2), 仁科 幸子1), 坂田 公毅1), 森川 葉月1), 樫塚 絵実1), 吉田 朋世1), 林 思音1), 横井 匡1), 東 範行1), 寺島 慶太3), 羽賀 千都子4), 義岡 孝子4)
1)国立成育医療研究センター眼科
2)埼玉医科大学眼科学教室
3)国立成育医療研究センター小児がんセンター脳神経腫瘍科
4)国立成育医療研究センター病理診断部

背 景:先天・発達白内障に網膜芽細胞腫(以下,Rb)を合併する例はきわめてまれである.我々は両眼性発達白内障に片眼性Rbを合併した症例を経験したため,治療経過について報告する.
症 例:1歳3か月,女児.母親が右眼の瞳孔領白濁に気づき近医を受診し,両眼白内障と診断され精査加療のため当院へ紹介となった.初診時に眼振はなく,右眼は固視不良で外斜視を呈していた.両眼に高度の白内障を認め,眼底は透見不能であった.超音波Bモード検査で右眼にRbを疑う隆起性病変が描出され,鑑別診断のため全身検索を行った.コンピュータ断層撮影(CT)で右眼内に石灰化を伴う腫瘍を検出したが全身に異常所見はなく,頭部磁気共鳴画像法(MRI)で視神経・眼外浸潤を認めなかった.全身麻酔下で最周辺部から眼底検査を試み,右眼に硝子体播種を伴うRb(国際分類:Group D)を確認し,左眼には異常はなかった.直ちに右眼球摘出を施行し,摘出眼の病理診断にてRbと確定した.また,脈絡膜浸潤があり後療法の適応となった.術後11日目に左眼の水晶体・前部硝子体切除術を施行し,術中眼底所見に異常はなかった.VEC療法(ビンクリスチン+エトポシド+カルボプラチン)6クールを施行し,術後6か月が経過したが合併症や転移を認めず,矯正視力は左20/190(Teller Acuity Card)である.
結 論:白内障の小児にRbが合併したまれな症例を経験した.初診時に超音波検査で異常がみられた場合,悪性腫瘍の存在も念頭に置いて直ちに詳細な検査を進める必要がある.(日眼会誌127:563-569,2023)

キーワード
白内障, 網膜芽細胞腫, 超音波検査, 全身麻酔下検査
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