背 景:移植片対宿主病(GVHD)のまれな眼合併症として角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)があり,重度の視機能障害を来す.今回,慢性眼GVHDに伴う両眼LSCDに対しアロ角膜輪部移植(KLAL)を行い良好な術後成績が得られたので報告する.
症 例:64歳,男性.急性骨髄性白血病に対する骨髄移植後に急性GVHDを発症し,重症ドライアイによる左眼の角膜穿孔を来し,東京歯科大学市川総合病院眼科に紹介された.左眼角膜中央やや下方に直径約1 mmの穿孔があり,羊膜充填術により角膜穿孔の閉鎖を得た.骨髄移植から2年後に両眼LSCDを合併し再度紹介となり,両眼KLALを施行した.両眼角膜は高度に肥厚した結膜増殖組織に覆われていたが,実質は透明で術後速やかに角膜上皮化が得られ,視力は右0.02(矯正不能),左10 cm指数弁(矯正不能)から,右(0.3),左(0.04)まで回復した.KLAL後は,GVHD治療として内科から処方された副腎皮質ステロイドとシクロスポリン内服,ならびに眼科から処方されたベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼により拒絶反応は起こらなかった.左眼結膜の組織診では間質のリンパ球と形質細胞を主体とする炎症細胞浸潤および線維化を認め,慢性眼GVHDとして矛盾のない非特異的な慢性炎症の病理像であった.
結 論:慢性眼GVHDに重症LSCDを合併し重度の視力低下を来す際には,KLALが有効な治療法の一つになると考えられた.(日眼会誌 127:606-613,2023)