論文抄録

第127巻第6号

症例報告

片側の視神経乳頭腫脹から発見された慢性硬膜下血腫の1例
佐藤 瑞希, 竹内 正樹, 東 花枝, 鈴木 武晴, 飯島 康仁, 壷内 鉄郎, 水木 信久
横浜市立大学医学部眼科学

背 景:頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭は原則,両側に生じるとされているが,今回,片側の視神経乳頭腫脹を契機に慢性硬膜下血腫と診断された1例を経験したので報告する.
症 例:71歳,男性.近医眼科にてX年1月に右眼の白内障手術,同年2月に左眼の白内障手術を施行した.X年5月15日,術後の定期診察のため近医眼科を受診したところ,右眼の視神経乳頭腫脹を認め,精査のため当院へ紹介となった.X年5月18日の当院初診時,眼底検査で右眼のみに中心陥凹が温存された著明な視神経乳頭腫脹を認めた.矯正視力は両眼ともに良好であり,限界フリッカ値は両側ともに正常値であった.光干渉断層計では右眼の視神経乳頭周囲に著明な肥厚を認め,左眼は正常範囲内であった.動的量的視野検査では右眼にMariotte盲点の拡大を認めた.視神経炎や圧迫性視神経症を疑った採血の結果でも異常は認めなかった.頭蓋内疾患も疑い再度問診したところ,X年2月に失神により頭部を打撲し,近医脳神経外科にて頭部コンピュータ断層撮影(CT)で異常なしと診断されていた.その後,X年4月頃から左足の動かしづらさを自覚していた.当院で撮像した頭部CTにて両側右優位に慢性硬膜下血腫を認め,当院脳神経外科にて同日に右穿頭血腫ドレナージが施行された.その後,血腫の縮小に伴い歩行障害とうっ血乳頭の改善を認めた.
結 論:片側の視神経乳頭腫脹であっても頭蓋内病変の可能性を考え,問診や精査をすることが重要であった1例を経験した.(日眼会誌 127:614-620,2023)

キーワード
うっ血乳頭, 視神経乳頭腫脹, 慢性硬膜下血腫, 頭部外傷
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