論文抄録

第127巻第7号

臨床研究

房水内代謝産物計測のためのレーザー透過機構とその安全性
栗原 俊英1)2), 篠島 亜里1)2), 木下 卓3)4), 西崎 早織3)5), 白川 佳則3)5), 木村 翔3)5), 李 德鎬1)2), 日高 悠葵2), 西 恭代2), 常吉 由佳里2), 鳥居 秀成2), 坪田 一男2)6), 根岸 一乃2)
1)慶應義塾大学医学部光生物学研究室
2)慶應義塾大学医学部眼科学教室
3)富士ゼロックス株式会社
4)株式会社シード
5)富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
6)株式会社坪田ラボ

目 的:房水内代謝産物を非侵襲的に測定するための足掛かりとして,可視光域のレーザー光を網膜側へ直接入らないように,前房内へ横向きに透過させる機構を構築すること.また,臨床的に房水透過レーザーのシグナル検出と安全性を検討すること.
方 法:光学シミュレータLightTools(Synopsys社)を用いて,角膜屈折率や非球面形状を考慮したヒトの眼球モデルを独自に作成し,光線追跡シミュレーションを行った.シミュレーションの結果をもとに測定装置を開発し,健常男性3名3眼(平均年齢28.3歳)を対象に,前房内の透過レーザー光を検出した.複数回測定し,断続的に6秒間27点で透過光を得た.
結 果:独自の眼球モデルで光線追跡のシミュレーションを実施したところ,空気・角膜間では安定した光路の確立がほとんど不可能で,房水に近い屈折率である生理食塩液で角膜周囲を満たす必要性を明らかにした.生理食塩液格納容器と光透過機構,研究対象者の顔を固定する独自の装置を開発し,臨床的に房水透過レーザー光シグナル(n=2,322)を得た.変動係数が0.15未満の累積相対度数は67%であり,変動係数の最頻値は最小階級の0~0.05であることから,システムとして妥当であると考えられた.また,研究対象者に有害事象は認められなかった.
結 論:本研究では,可視光域のレーザー光を前房内へ横向きに透過させ,非侵襲的にシグナルを概ね検出できた.また,first-in-human試験として安全性を確認でき,臨床応用の可能性を見出すことができた.(日眼会誌127:672-679,2023)

キーワード
房水, 代謝産物, 非侵襲測定
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〒160-8582 東京都新宿区信濃町35 慶應義塾大学医学部眼科学教室 栗原 俊英
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