論文抄録

第127巻第7号

症例報告

急激な拡大が認められた脈絡膜骨腫に脈絡膜新生血管を合併し硝子体内注射を施行した女児の1例
井上 裕治1), 青木 寧子2), 永野 雅子3), 田中 宏樹2), 井上 賢治3)
1)帝京大学医学部眼科学講座
2)西葛西・井上眼科病院
3)井上眼科病院

目 的:小児期に発症および急速な増大を来し,脈絡膜新生血管(CNV)を合併した脈絡膜骨腫にベバシズマブの硝子体内注射を施行した1例を経験したので報告する.
症 例:6歳8か月,女児.学校検診にて左眼の視力低下を指摘され近医を受診し治療したが改善なく,西葛西・井上眼科病院を紹介受診となった.初診時の視力は左0.9(矯正不能)であり,左眼後極部に視神経乳頭に隣接した橙赤色の円形病変を認め,黄斑部には色素斑を複数認めた.光干渉断層計では黄斑部に漿液性網膜剝離(SRD)と脈絡膜の隆起,Bモード超音波検査では高い反射像と球後組織の吸収減衰像を認め,脈絡膜骨腫と診断した.初診より11か月後,腫瘍は拡大したが,SRDは消失した.さらに2年後には,網膜下出血(SRH)およびSRDが出現し,視力は(0.5)に低下した.蛍光眼底造影検査にてCNVと診断した.ベバシズマブの硝子体内注射を施行し,SRDは消失しSRHも減少した.初回注射から4か月後,SRDが再発したため2回目のベバシズマブの硝子体内注射を施行した.その後の再発は認めていないが,視力は(0.3)と低下したままである.腫瘍は4年間の経過観察中に横径で2.22 mm/年と急速な増大を認め,現在も縦方向に拡大している.
結 論:女児の脈絡膜骨腫に合併したCNVに対し抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射が著効した.若年での発症であり,腫瘍の拡大を急速に認め,現在も増大している.今後も経過観察が必要である.(日眼会誌127:689-696,2023)

キーワード
脈絡膜骨腫, 脈絡膜新生血管(CNV), 抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬療法
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