論文抄録

第127巻第8号

総説

糖尿病黄斑虚血の臨床的意義と分子標的治療の可能性:網膜血管再構築のための新たな介入戦略
石田 晋
北海道大学大学院医学研究院眼科学教室

糖尿病網膜症(DR)の病態は,網膜における細小血管障害に起因して,神経障害を併発することが明らかにされている.近年,神経血管ユニットという機能形態学的概念が導入され,DRにおける血管障害と視機能障害の時間的・空間的な関連性に対する理解が深まっている.糖尿病黄斑虚血(DMI)は,血管障害と視機能障害によって視力をおびやかす可能性のあるDR病態の一つであるが,その臨床的意義や分子メカニズムは十分に解明されておらず,DMIの治療戦略も明確になってはいない.これまでにDMIの定義や診断基準についてコンセンサスは得られていないが,光干渉断層血管撮影(OCTA)で評価されたDMIは,視力や視機能の低下につながる中心窩無血管領域(FAZ)の拡大やDRの重症度との関連性が示されている.本総説では,DMIが視機能や網膜形態に及ぼす影響,DMIの治療コンセプト,治療介入の可能性,期待される治療戦略についてエビデンスに基づき解説した.DMIは一過性の白血球塞栓によることもあるが,多くは不可逆性の血管内皮細胞脱落によると考えられるため,既存の抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬ではDMIの病態を十分に改善することは期待しがたい.DMIに引き続く糖尿病黄斑浮腫(DME)や病理的血管新生を選択的に抑制し,無灌流領域における生理的血管新生を促すといった網膜血管の再構築・再灌流が,DMIに対する有用な治療戦略と考えられる.(日眼会誌127:725-740,2023)

キーワード
糖尿病黄斑虚血(DMI), 糖尿病網膜症(DR), 血管新生, 血管内皮増殖因子(VEGF), 神経血管ユニット
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