論文抄録

第128巻第1号

臨床研究

アロ角膜輪部幹細胞移植後の安定に関わる因子の検討
冨田 大輔, 山口 剛史, 佐竹 良之, 島﨑 潤
東京歯科大学市川総合病院眼科

目 的:アロ角膜輪部幹細胞移植は,両眼性の角膜上皮幹細胞疲弊症患者の眼表面を安定させて視力を改善させる有効な治療ではあるが,長期安定が難しいことが多い.近年,角膜上皮幹細胞疲弊症に対する治療方針が世界的にも定まってきたが,未だに治療が非常に困難な症例も多く,臨床予後因子は不明な点も多い.本研究ではアロ角膜輪部幹細胞移植の予後に関わる因子を検討した.
対象と方法:対象は2011~2021年に東京歯科大学市川総合病院眼科でアロ角膜輪部幹細胞移植術を施行した角膜上皮幹細胞疲弊症32例42眼〔年齢54.3±15.7歳(平均値±標準偏差)〕である.原疾患,年齢,視力,術前の臨床所見,術後管理について,経過観察中に眼表面が安定していた群(以下,眼表面安定群)と,角膜輪部機能不全に陥った群(以下,移植片機能不全群)に分けて比較検討した.
結 果:原疾患で多かったのはStevens-Johnson症候群と中毒性表皮壊死症が15眼(35.7%),熱傷・化学傷が11眼(26.2%)であった.眼表面安定群は28眼(観察期間:26.5±15.2か月)で,移植片機能不全群は14眼(観察期間:17.6±18.7か月)であった.Coxハザード解析の結果,結膜充血(p=0.008),瞼球癒着(p=0.013),皮膚粘膜移行部の変化(p=0.011),眼表面スコアの総合点(p=0.002)がアロ角膜輪部幹細胞移植の予後不良因子であった.
結 論:角膜上皮幹細胞疲弊症に対するアロ角膜輪部幹細胞移植は,予後不良例が多く,今回の検討で眼表面が安定していた症例は全体の66.7%であった.特に術前の結膜充血や瞼球癒着,皮膚粘膜移行部の変化はアロ角膜輪部幹細胞移植の予後不良因子であった.(日眼会誌128:30-37,2024)

キーワード
角膜上皮幹細胞疲弊症, アロ角膜輪部幹細胞移植, 眼表面の安定, 視力予後
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