論文抄録

第128巻第1号

症例報告

視機能の低下を伴った両眼性脈絡膜骨腫の親子例
中田 梨沙1), 山本 香織1), 川上 摂子1), 山田 眞2), 後藤 浩1)
1)東京医科大学臨床医学系眼科学分野
2)板橋眼科山田医院

背 景:まれな良性眼内腫瘍である脈絡膜骨腫は主に若年女性にみられ,黄斑に生じた場合は視力低下を来す.これまで姉妹例の報告は複数あるが,親子例の報告はきわめてまれである.今回,視機能の低下を伴った両眼性脈絡膜骨腫の親子例を経験したので報告する.
症 例:症例1は43歳の女性である.23歳時に左眼の視力低下を自覚し,両眼性脈絡膜骨腫の診断のもと経過観察されていた.43歳時,第1子女児の出産7日後から右眼に歪視を自覚し,当院を受診した.視力は右(0.9),左(0.05)で,両眼の視神経乳頭周囲に境界明瞭で萎縮を伴った黄褐色の広範囲な陳旧性病変がみられ,右眼の黄斑には軽度の漿液性網膜剝離を伴っていた.左眼は黄斑まで病変が及んでいた.50歳時に右眼の中心窩下に脈絡膜新生血管を生じたため,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内注射を施行し,現在まで経過観察中である.
症例2は6歳の女児で,症例1の長女である.就学時健診で左眼の視力低下を指摘され,近医で脈絡膜骨腫が疑われ当院を紹介受診となった.視力は右(1.2),左(0.3)で,両眼の視神経乳頭周囲に境界明瞭な黄橙色の病変があり,左眼の黄斑には漿液性網膜剝離がみられた.眼底所見,光干渉断層計所見および超音波断層検査所見から母親と同様,両眼の脈絡膜骨腫と診断した.左眼の漿液性網膜剝離に対して抗VEGF薬硝子体内注射を施行したところ,網膜下液はわずかに減少した.
結 論:脈絡膜骨腫ではきわめてまれながら親子発症例が存在する.(日眼会誌128:38-44,2024)

キーワード
脈絡膜骨腫, 親子, 家族性, 漿液性網膜剝離, 抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内注射
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〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1 東京医科大学臨床医学系眼科学分野 中田 梨沙
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