背 景:基底細胞癌(BCC)は表皮の基底細胞や毛包細胞が癌化することによって生じ,眼部では眼瞼およびその周囲の皮膚からの発症が圧倒的に多く,涙丘からの発症は非常にまれである.さらに,涙丘に発生したBCCが眼窩内浸潤を来すこともまれである.今回,涙丘にみられたBCCの2例を経験したので報告する.
症 例:症例1は76歳,女性.左眼内眼角部の異物感を自覚し,結膜腫瘍の診断で紹介受診となった.左眼涙丘部に血管走行の目立つ,境界明瞭で茶褐色の腫瘤が観察された.切除生検の結果,BCCの診断が得られ,その後,再発はみられていない.
症例2は52歳,男性.左眼内眼角部に暗赤色の腫瘤がみられ,流涙と疼痛を自覚していたため紹介受診となった.涙丘部の腫瘤に対して切開生検を行ったところ,BCCと診断された.その後の画像検査や涙道内視鏡検査で上涙小管や眼窩内へのBCCの浸潤が判明したため,改めて経皮的に周囲組織も含めて可及的に腫瘍を切除した.その後は保存的に経過観察を継続し,明らかな再発はみられていない.
結 論:きわめてまれであるが,BCCは涙丘にも発生することがあるとともに,眼窩内浸潤を来すことに留意する必要がある.(日眼会誌128:45-49,2024)