背 景:網膜色素変性は,多様な遺伝的原因によって杆体優位の視細胞障害を来す疾患の総称である.今回,網膜分離症の合併を契機に網膜色素変性の診断に至った1例を経験したので報告する.
症 例:52歳,女性.幼少期から夜盲を自覚していた.近医で左眼の網膜分離症を指摘され,当院を紹介された.初診時矯正視力は両眼ともに1.2で,両眼底は近視様である以外は正常範囲内であった.Goldmann視野検査では両眼に島状暗点を認めた.光干渉断層計(OCT)では左眼の外網状層に網膜分離と,両眼の中心窩から10°離れた部位にエリプソイドゾーン(EZ)の消失を認めた.眼底自発蛍光検査ではOCTのEZが消失した領域に一致して輪状の過蛍光がみられた.全視野網膜電図では杆体優位に高度の反応低下を認めた.臨床所見からは無色素性網膜色素変性が疑われた.全エクソーム解析では,ロドプシン(RHO)遺伝子の既知のミスセンス変異c.68C>T(p.P23L:NM_000539)をヘテロ接合性に認めた.
結 論:網膜色素変性では黄斑浮腫などの黄斑病変をしばしば合併するが,網膜分離症を合併した報告は少ない.本症例のような無色素性網膜色素変性は診断が容易ではないが,網膜分離症を契機に診断に至る症例があることを念頭に置く必要がある.(日眼会誌128:789-794,2024)