論文抄録

第128巻第2号

症例報告

学会原著
第127回日眼総会
緑内障に伴う黄斑部の網膜分離症3例に対する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼加療の長期成績
春田 雅俊, 吉田 茂生
久留米大学医学部眼科学講座

背 景:進行した緑内障では,視神経乳頭から黄斑部にかけて網膜分離症を生じることがある.
症 例:症例1:67歳,女性.両眼の視神経乳頭の陥凹拡大と左眼の視神経乳頭から黄斑部にかけての網膜分離症を認めた.初診時の左眼の矯正視力は1.0,眼圧は13 mmHg,中心窩網膜厚は476 μmであった.炭酸脱水酵素阻害薬の点眼加療により網膜分離症は緩徐に改善した.点眼開始後71か月の左眼の矯正視力は1.2,眼圧は16 mmHg,中心窩網膜厚は244 μmであった.症例2:76歳,男性.両眼の視神経乳頭の陥凹拡大と左眼の視神経乳頭から黄斑部にかけての網膜分離症,中心窩の外層円孔と網膜剝離を認めた.初診時の左眼の矯正視力は0.5,眼圧は11 mmHg,中心窩網膜厚は786 μmであった.炭酸脱水酵素阻害薬の点眼加療により網膜分離症と網膜剝離は緩徐に改善した.点眼開始後61か月の左眼の矯正視力は0.2,眼圧は15 mmHg,中心窩網膜厚は173 μmであった.症例3:85歳,男性.両眼の視神経乳頭の陥凹拡大と右眼の視神経乳頭から黄斑部にかけての網膜分離症を認めた.初診時の右眼の矯正視力は0.3,眼圧は8 mmHg,中心窩網膜厚は484 μmであった.炭酸脱水酵素阻害薬の点眼加療により網膜分離症は緩徐に改善した.点眼開始後31か月の右眼の矯正視力は0.5(矯正不能),眼圧は6 mmHg,中心窩網膜厚は202 μmであった.
結 論:緑内障に伴う黄斑部の網膜分離症では,長期の炭酸脱水酵素阻害薬の点眼加療によって黄斑部の網膜分離症が緩徐に改善され,再燃を来さない症例もあると思われる.(日眼会誌128:79-86,2024)

キーワード
炭酸脱水酵素阻害薬, 緑内障, 網膜分離症, 外層円孔, 網膜剝離
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