論文抄録

第128巻第7号

症例報告

フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の眼内浸潤にメトトレキサート硝子体内投与が有効であった1例
津田 祐希, 長谷川 英一, 中間 崇仁, 八幡 信代, 武田 篤信, 園田 康平
九州大学大学院医学研究院眼科学分野

目 的:フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の眼内浸潤に対してメトトレキサート(MTX)の硝子体内投与が有効であった1例を経験したので報告する.
症 例:76歳,男性.20XX年1月に前医血液腫瘍内科でPh+ALLと診断され,分子標的薬を含めた全身化学療法が行われるも中枢神経浸潤を認めていた.同年8月に両眼の霧視を主訴に当科を紹介受診したところ,左眼の前房蓄膿と両眼の硝子体混濁を認めた.前房水の細胞診でリンパ球性の白血病細胞を認め,Ph+ALLの眼内浸潤と診断した.全身化学療法を継続したが,両眼の硝子体混濁が増悪し,視力低下を来したため,20XX+1年7月に眼底透見の改善を目的に両眼の硝子体手術を施行したところ,視神経と網膜血管に沿って白色の浸潤病変を認めた.計10回のMTX硝子体内投与を施行したところ,眼内の浸潤性病変の萎縮瘢痕化が得られた.
結 論:眼内に浸潤を来したPh+ALLに対してMTXの硝子体内投与が有効であった症例を経験した.Ph+ALLに対しては全身化学療法や硝子体手術を含めた集学的治療が必要であるが,MTX硝子体内投与は眼局所での腫瘍細胞抑制効果が期待でき,治療の選択肢となり得ることが示唆された.(日眼会誌128:552-558,2024)

キーワード
フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL), メトトレキサート(MTX)硝子体内投与
Corresponding Author(別刷請求先)
〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1 九州大学大学院医学研究院眼科学分野 長谷川 英一
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