論文抄録

第128巻第7号

症例報告

眼窩に発生した軟毛囊腫に対して経眼窩縁アプローチによる摘出術(Krönlein手術)を施行した2歳児の1例
丸尾 恵子1), 平野 香織2), 坪田 欣也1), 後藤 浩1)
1)東京医科大学臨床医学系眼科学分野
2)千葉県こども病院眼科

目 的:乳幼児期に診断される代表的な眼付属器腫瘍には皮様囊胞などがあり,必要に応じて摘出術が行われるが,深在性の腫瘍に対して治療が行われる機会はまれである.今回,幼児の深在性眼窩腫瘍に対して経眼窩縁アプローチによる摘出術(Krönlein手術)を施行し,軟毛囊腫の診断に至った症例を経験したので報告する.
症 例:症例は1歳4か月の女児で,小児科の定期健診で遠視を指摘され近医眼科を受診した.その際,顔面の非対称性がみられたことから頭部コンピュータ断層撮影(CT)を撮像したところ眼窩腫瘍が発見され,当科を紹介受診となった.視力は右0.06×+6.00 D,左0.06×+9.00 Dで,左眼は内下方に偏位していた.CT上,腫瘍は左の涙腺窩から後方にかけて存在し,磁気共鳴画像法(MRI)のT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を呈していた.すでに視機能への影響も現れていたため腫瘍摘出術を計画し,2歳4か月時に骨切りを併用した経眼窩縁アプローチによる腫瘍摘出術(Krönlein手術)を施行した.術中所見としては骨膜が厚く,一般成人よりも骨髄からの出血が旺盛であった.病理組織検査の結果,軟毛囊腫の診断に至った.術中合併症はなく,術後の経過も良好である.
結 論:乳幼児の深在性眼窩腫瘍に対する経眼窩縁アプローチによる腫瘍摘出術は,成人の場合とほぼ同様に実施可能である.軟毛囊腫は眼窩深部にも発生することがある.(日眼会誌128:559-565,2024)

キーワード
軟毛囊腫, 眼窩腫瘍, 乳幼児, Krönlein手術
Corresponding Author(別刷請求先)
〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1 東京医科大学臨床医学系眼科学分野 後藤 浩