論文抄録

第129巻第3号

評議員会指名講演III

第128回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演III 視覚とニューロサイエンス
Adult Strabismus in Ophthalmology―現在の斜視診療と新たな視点―
後関 利明1)2)
1)国際医療福祉大学熱海病院眼科
2)北里大学医学部眼科学教室

Adult Strabismus Questionnaire(AS-20)を用いた調査により,斜視手術は,心理社会的および機能的な側面で患者の健康関連生活の質(QOL)を改善させることが確認されている.さらに,斜視治療の全国調査での,2013年と2021年の比較から,治療件数の全体的な変化は少なかったものの,成人患者の割合が増加し,特に内斜視手術の増加が示された.一方で,治療可能な施設の地域格差や治療を受ける患者の集中が課題として浮き彫りになった.
特に,加齢性変化による斜視疾患であるsagging eye syndrome(SES)は,眼窩プリーの変性が原因で発症し,成人斜視の主要な要因として注目されている.眼窩プリーは外眼筋の位置を安定させ,眼球運動を円滑にする重要な組織である.SESは小角度の斜視であるため診断が難しい場合も多く,上眼瞼陥凹や低body mass index(BMI)が診断の助けとなる.また,近年注目される「アイフレイル」の概念においても,SESは加齢性変化に関連する疾患として位置づけられている.治療にはプリズム眼鏡や斜視手術が有効であり,患者ごとの症状に応じた適切な対応が必要である.
また,水平眼球運動が視神経への機械的ストレスや眼圧変動を引き起こし,視神経の形態変化や血流低下を介して緑内障の発症・進行に関与している可能性を示唆した.さらに,緑内障手術後には眼球周囲組織への影響が原因で斜視が発症するリスクが報告されている.
今後は,眼科医は細分化された専門分野だけでなく,他分野との関連性を考慮した総合的な視点とアプローチが求められる.(日眼会誌129:379-402,2025)

キーワード
眼窩プリー, sagging eye syndrome(SES), Adult Strabismus Questionnaire(AS‒20), アイフレイル, 緑内障
Corresponding Author(別刷請求先)
〒413-0012 熱海市東海岸町13-1 国際医療福祉大学熱海病院眼科 後関 利明
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